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 運の悪いことに、保健の先生が席を外していた時の出来事だった。灯はその女子を追いかけ、校内を走り回された。授業中の教室を避け、たくみに人気のいない場所を選び、最終的に誘い込まれたのが外の、旧体育館倉庫だった。スマホを見られたら一貫の終わりだと思ったのか、灯は必死になって取り返そうとした。気付いた時にはもうそこへ閉じ込められていたという。  ほとんど忘れ去られた倉庫は、ただでさえ人が近付かない。天気も悪化の一途をたどり、運動部の活動もなかった。それに今は文化祭の準備でどこも忙しい。  悪条件がいくつも重なって、灯はそのうち意識を失った。  救い出したのは、灯を迎えに来た蒼さん。電話が繋がらない。保健室から消えた。教室に荷物はある。それらの状況を見て、放送室に乗り込んで灯に呼びかけ、灯に何かあったらただじゃおかない等々騒ぎまくり、件の女子が泣きながら名乗り出てきたそうだ。 「お客さん、着きましたよ?」  運転手のおじさんにそう言われ、初めて車が停まっていたことに気が付いた。スマホを額に押し当てていた俺はハッと顔を上げ、ルームミラー越しで運転手と目が合った。 「お兄さん大丈夫? 顔色悪そうだけど」  だから病院なのかと納得したのか、「お大事にね」と言われ、慌てて料金を支払った。  降りしきる雨の中、テールランプの明かりを残しつつタクシーは去る。夜間診療の入口を探し、薄暗い廊下を進むと手の中が光った。ハッと息を詰め、スマホを見つめる。相手は蒼さんだった。 「も、もしもし……」 <せーま?>  灯の声だ、と即座に分かったのに反応出来なかった。     
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