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うっかり二人だけの世界に浸りかけていたが、けたたましいシャッター音とフラッシュで早々に気付かされる。例えば陸さんが興奮していること。蒼さんが歯を剥き出しにして睨みつけていること。もう一人の蒼さんが冷めた目でじっとこちらを見て……え? 蒼さんが、二人? いやいや、そんな恐ろしいことあるわけない。
目の錯覚かと思ったが、会計窓口から足取り揃えてくるのは絶対二人。よく見ると、一人は白衣を着ていて、眼鏡を掛けている。髪も後ろで束ねているし、何もかもが似ているわけではない。ただ、顔の造形はそっくり。生き写しだ。赤の他人とは到底思えない。
「あ、あの……ええと?」
灯に助けを求めたかったが、それより早く蒼さんに似た白衣の女性が口を開く。
「きみが灯をBLに目覚めさせた彼氏? まぁ、見た目だけは灯に釣り合うわ。見た目だけは」
目と口をパチパチパクパクさせていると、蒼さんが「見た目だけなのよ」とさらに強調する。
「あ、春姉。仕事中にごめんね。吃驚したよね……」
灯が目元を擦って顔を上げると、春さんは別人のように頬を綻ばせ、唇に笑みをのせた。随分高い位置にある腰を曲げ、灯の涙を軽やかに拭いた。
「気にしなくていいのよ。姉ちゃんは灯の専属なんだから」
灯は「う、うん」と控えめに微笑んだ。
須田家次女、春さんとはまだお目にかかれていなかった。仕事が忙しく、生活時間がずれるのでなかなか会えないと聞かされていたが、お医者様だったとは。
「蒼さんと春さんは双子なんですよ」
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