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 おかげで灯に近づけなかった。ただでさえ蒼さんには接触禁止を申し渡されているので、学校以外では会えない。それなのに「灯から目を離さないで」とやや矛盾した命令も受けているので厄介。しかも、灯まで「しばらく一緒に居ない方がいいよ」と言うのだ。メールのやりとりは頻繁にしているが、顔を見て話したい。灯の視線を肌で感じたかった。 「あ、灯ちゃんだ」  チッ、とつい舌打ちがでる。だって、白井より先に俺が見つけていたのに。  渡り廊下を進み、購買のある中庭を横切った時だった。昼食間近なので今日も熱い戦いが繰り広げられている。灯がいるのはそんな野蛮な群れではなく、外れた位置にある自動販売機の列。こちらはお行儀よく順番を待っている。  「……カフェオレ買ってくる」  俺はくるりと向きを変え、運よく灯が最後尾にいる列へ続いた。白井が含み笑いをして付いてきたが、存在を無視する。そんなことより目の前に灯がいるのだ。触れたくてたまらない後頭部を見つめ、「よ、よぉ」と心なし震えた声を上げていた。が、灯が振り向いたのは「灯ちゃん!」と白井が馬鹿でかい声で呼んだせいだった。 「あっ、白井。と、せーま……」 「お、おう……。元気か」  なんてつまらないことを訊いているんだ。くりりと丸まった瞳が俺を見つめるのは一瞬で、すぐにおろおろと周囲を気にし始める。それでも、「う、うん」と返事をくれた。それから話題を探すように、俺と白井の持つ教材に目をやった。 「あ、次の授業化学? 俺のクラスは一時間目にあったよ」     
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