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 灯は笑顔のまま前を向き、ようやく番が回ってきた自動販売機へ硬化を投入した。その手が、震えているのを目にした瞬間、自分でも驚くほどの声を張り上げていた。 「あー、確かに須田って可愛いし、そこらの女子より俺、タイプかも」  まるで、ここにいる生徒全員が俺の声を拾ったようにしんと静まり返った。視線も浴びているが、俺が気にするのは目の前の灯だけ。 「なっ、……ん!?」  耳を疑ったであろう灯は勢いよく俺を見て、バランスを崩して自動販売機へ倒れ込む。  ガコン、と紙パックが取り出し口に落ちる音がした。 「期待されてるみたいだし、本当に俺と付き合わない?」 「はっ……、は、あ!?」  体勢を整えた灯は驚きから一転、眦をきゅっと上げて俺を睨み付けてきた。 「男なら妊娠もしないし、楽そうだよな?」 「セ、セクハラ!」と白井が悲鳴を上げた時、胸にピンクの紙パックがぶつかってきた。 「なっ、なに、ばかっ、言って……、ふざけんな馬鹿っ!」  怒りで顔を腫らした灯は、誰もが振り向くほどの大音量で絶叫してから一目散で逃げた。  手の中にあるイチゴ牛乳の紙パックを見つめ、「残念。振られたみたい」と自嘲気味に言うと、こちらを注目する視線はバラバラになっていった。冗談か、本気なのか。曖昧な空気が徐々に薄れ、何事もなかったように誰もが振る舞った。 「あれ、買わねーの?」     
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