六、集中線

16/35
前へ
/165ページ
次へ
「あ……そこのカフェはちょっと。今、別件でうちの事務所の弁護士がいるから、ややこしくなるんで」 「そうか。俺もまあ綺麗な身じゃないからな。うーん。ここら辺、ネカフェぐらいしか俺は知らないから困ったな」 「倫くん、向こうで期間限定でアクアリウムカフェやってたよ」 「アクアリウムカフェ、なんだそれ」 「どこでもいいです。そこ、案内お願いします」  目の前でイチャイチャしだしたカップルを見ている時間が惜しいと早口でまくし立てた。  それに駅前の人が多い場所は、安全かもしれない反面知り合いに会いやすい。  学校にほぼ行っていない美矢を見つけ、噂になるのも困る。  悪い人ではない。  会った瞬間兄のことを大切そうに話してくれた相手に、少しだけ印象を良くした美矢は、そう思った。 「急ぎましょ。どっち」 「えっと、西口の方に」 「分かりました。では、そちらへ――」  キラッと空が光る。  踵を返した美矢が空を見上げると、駅の二階のエレベーターを登っている相手のカバンが光った。  二階は歩道橋のように道が広がり駅と駅ビルを交差して、その下をバスが通っている。光ってる相手は、エレベーターを登りつつこっちを見て目を見開いている。 「……龍星」
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加