六、集中線

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  * 「本当にごめんなさい。申し訳ないです。何でもします」  妊娠中の奥さんを引っ張り、アクアリウムカフェにやってきた。  大きな金魚鉢の水槽がテーブルの間に置かれ、衝立の役割をしているらしい。真ん中で区切りをしてあり、向こう側は見えない。  平日の昼過ぎなので、これから学校帰りの学生が増える時間だろうか。そこまで人は多くなかったので、一番奥の、入り口から死角になっている四人掛けのテーブルに座った。  そこで小さなクラゲが泳いでいる水槽を眺めていた奥さんに謝った。 「大丈夫よ。走ってはないし。もし危険だったらあなたの手を振り払うぐらいの力はあるの」  長いつばの帽子を取ると、その帽子で顔を仰ぐ。長い髪が乱れ、その髪を耳にかける仕草に見とれてしまった。 「先ほどの少年だけど」 「龍星に関しては、貴方に関係ありませんが」 「……いや、二日前に俺が少し絡んでしまったんだ」 「絡む……?」  怪訝そうに尋ねると、気まずそうに咳払いをした。 「彼のことも踏まえてだが、俺は君にどうしても伝えなければと思ったんだ」 「長くなるんなら飲み物頼んだらどうかしら」 「お前はリンゴジュースだろ」 「そうね。暑いから冷たいものが美味しいわね。ほら、ソーダパフェとか美味しそうよ」 貝殻のメニュー表を上に広げ、文字だけのメニューを見ていく。ケーキとジュースと軽食で、写真は載っていなかった。
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