雪の記憶を爪弾く 白群の消失点

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 八月二十三日 PM:18:40  夕暮れの空を見れば、季節が分かる。日が落ちるのが早くなれば冬が駆けてくる。  そうなれば、真夏に着ていたジャンバーコートが不自然じゃなくなる。  そして凍てつく雪が全身を包み込むのだと、ガムを噛みながら少女はただただ、他人事のように季節の移り変わりを空で確認していた。  煙草の匂いが染みついたカラオケボックスのソファの隅で、携帯を取り出し空を映した写真を眺めながら、冬の訪れに絶望していた。 「ミャーさん」  名を呼ばれた少女は、一年中着ているコートの、もこもこしたファー付きのフードを大きく揺らして、声の方を見た。見た目は中学生か、小学生と言われても納得してしまう。覇気のない濁った瞳と百四十九センチの身長がアンバランスな印象だ。少女はすぐに空の写真をタップして消すと、パソコンメール画面に戻す。先ほどから、ちまちま入力していた文字を、もう一度見直した。  『虹が空を渡り、ずっと彼方に続いている。その虹に乗せて私を運んでくれないだろうか。昔のような笑顔、今もそこにあるのだろうか。私はここに眠る』  手ごたえはない。が、着飾った言葉を並べてみた。そうしたら、少しは違うんじゃないかなって思って、偉そうな綺麗な言葉を並べてみた。 「ミャーさん、歌わないの?」
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