本当の嘘

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本当の嘘

 公開当日は早朝から皆が緊張していた。上映後に監督と共に舞台挨拶をするコトとなった声優陣、とりわけ箱田は数度トイレに駆け込む程である。今泉の地球探査員B役は地上パートの主役となった。そこはシナリオに変更があったと箱田に説明したが、私を差し置いて主役をと散々怒鳴られた。そんな箱田が役名と名前を言うだけの舞台挨拶で緊張しているのを見て、今泉は少し落ち着いた。  上映は素晴らしい歓声と共にフィナーレを迎えた。作画は地獄のスケジュールの中で作られたとは思われない程に安定して、劇判も高い評価を得た。声優については箱田の演技が笑の演出と捉えられて評価されるという望外な形となった。もちろん河本ゆりかによるエンディング曲は多数のフアンがイントロだけで涙した。もっとも残りの客は既に泣いていただけであるが。  なにより、深海パートと地上パートに別れていた話が進むほどに融合していく脚本と演出は高い評価となり、現場復帰した田沼監督の素晴らしい才能を感じさせるものであった。テロップ後のテレビアニメ化を匂わしつつ、笑いを取る演出も受け入れられた。  フィラフステ星人の40年来の野望はここに、最高の形で結実したのである。  舞台脇のフィラフステ星人は泣きに泣いた。監督の号泣っぷりはこの後に舞台に上げて良いかと思う程であった。もちろん日本海溝遠征基地から大型モニターで見ていた長を始めとしたフィラフステ星人、いや、ライブビューイングしていたフィラフステ星の全ての住民が涙していたのである。
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