本当の嘘

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 観客席が湧いた。箕輪監督は20年程前に世俗から消えていたアニメ界のレジェンドだったからである。  「私が最初に動画の手解きを受けたのが箕輪監督でした。あの感動は今も忘れません。」  「まさか、嘘から出たまこと…いや、この映画は君たちにとっては本当の嘘なのか。素晴らしかったよ、本当に素晴らしい映画だ。」  「回復した!」  長の声を聴くと同時に舞台の上のフィラフステ星人たちが人の姿に擬態した。  「ここにいる全ての人、いや、世界中の人にお願いしたい。私たちフィラフステ星人のアニメーション制作を続けさせて欲しい、私たちを地球に受け入れて欲しいのです。フィラフステ星人は平和が好きです、それはこの作品から理解いただけるように作ったつもりです。本当はもう少し年数を重ねてから正体を現したかったのですが、発覚がワープした模様で。あ、ワープといえば、地球に現在必要のない、平和を損ねる可能性のある科学については、もう暫くお話出来ませんが……。」  田沼監督のスピーチに箕輪監督が拍手をした。続けて観客席からも次々と拍手が湧いた。  そして、ちょうど1年後に日本及び国連とフィラフステ星の和平交渉が結ばれるコトとなるのだが、それはまた後のお話。  「いやぁ、雛さんのおかげで助かりましたよ、よくあの場で館内を鎮めてくれました。」  「なんか、アンタがタコになるの見て現実に引き戻されたからね、私にタコの姿を見られたからこの仕事をくれたんでしょ。まあ、有難かったけどね。」  騒動の後に普通の舞台挨拶をして、観客席で銀色っぽいタコ…もといフィラフステ星人の姿に一時なった映画会社の取締役が、マスコミ等に細かい説明は後日にするからと説得し、水を媒体とした転送装置でフィラフステ星人は皆、日本海溝遠征基地に戻ったのだ。泣き叫ぶ長たちの元に。  ただ、箱田を日本海溝遠征基地に入れるのは時期尚早と長が判断し、今泉の家に今泉と箱田を転送したのである。  「まあ、明日からはとても忙しくなるわね、特に私たちは。」  「え、なぜこの俺たち?」  にんまりして箱田がポケットから取り出したのは妊娠検査薬だった…陽性反応済みの。二人にとって今日一番の発覚であった。                       完
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