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第一章 少女
_い_
桜が咲いていた。その中にいるは、美しく色っぽさが溢れる女性。耳と尻尾が生えていなければ。
「あの……」
私は恐る恐る声をかけた。が、女性は此方を見ず。その代わり、自身を扇ぐようにしていた扇子をパタンと音を立てて勢いよく閉じた。私は思わず、過剰に反応してしまう。
「お主、ここで何をして居る。帰れ。さっさと。お主は、ここに居てはならぬ。さあ、帰るがいい。“人間”よ」
彼女は”人間“と言った瞬間、悲しそうな顔をした。見ているしか出来ない私。彼女は、すぐ扇子で扇ぎ始めた。もう声をかけることが出来なかった。否、かけようとした。が、声が出ないのだ。
「アナタは一体……」
最後に力を振り絞って出た言葉だった。無理くり出したためか、喉が酷い痛みを感じている。
全身に、急に感じた脱力感。それが無ければ、まだ声を出そうとしただろう。座り込んだ私は、微睡み始めた意識を起こそうとした。が、叶わず意識はゆっくりと暗闇に沈んでいった。
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