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第4章 #2
余った時間で新しいニット帽を編む事にする。
次はグレーの糸をチョイスすると、集中も出来るし時間を潰すにはもってこいだった。
指を常に動かしているので、眠気も来ない。
前に失敗をしているので今回はパチッと目を開けておきたい。
そろそろご飯の時間だと時計に目をやると19時を回った所だ。
栗栖社長達も帰って来るだろうと思い、支度をする事にした。
いい具合に温まった所で「ただいま戻りました」と高橋さんに続いて、栗栖社長が疲れた顔を覗かせていた。
今日も慣れない仕事だったのかと表情ですぐに分かるぐらいだ。
ソファにドカッと座ると「楓は寝てるの?」とお声が掛かる。
「はい。そろそろ起こしに行こうかと思ってます」と言い終わる前に、高橋さんが2階に向かっていた。
「あれ、何か作ってる?」
「あ、はい。ニットキャップ編んでます」
長谷川社長と違い、デザイン担当の栗栖社長に見られるのは、何だか恥ずかしい。
「気まぐれで編んでるんで、あまりしっかり見ないで下さい」
「おかえり堵亜。俺ニットキャップ作ってもらったよ♪」
2階から降りてきた長谷川社長は早速自慢をしていた。
「ちょっと痩せたみたいだけど、元気そうで良かった」
長谷川社長はリアクションを楽しみにしていたのに、アッサリと交わされてつまらなそうにしている。
それだけ栗栖社長が心配しているという事だ。
「堵亜の方が疲れた顔してるじゃん……」
「今回だけだからな!お前が早く戻って来ないと、俺が病気になる。次からは絶対に御免だからな!」
「うん、気をつけるよ」
いつもは長谷川社長の方が一枚上手なのに、今日は素直に謝っていた。
キツく言っているようで照れ隠しにも見える。
社長室で、慣れない作業を一生懸命にしていた栗栖社長……。
不器用だけど優しいとこもあって、2人はきっとお互いに分かっているんだと会話から感じ取れ、胸が熱くなるような気持ちになる。
『こういう関係素敵だな……』
見ていない振りをしていたが2人の関係に少しキュンとしてしまった。
言わなくても伝わったり苛立ちを八つ当たりしたり……女性同士とは違った付き合い方が何となく羨ましい。
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