第6章 #2

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『厶、ムカつく』と思ったが、せっかくのコーヒーを台無しにしたくはない。 「いただきます」 言葉とは違いリキュールの入ったコーヒーはホッとするし、優しい口当たりで渡瀬さんも美味しそうに飲んでいる。 ロウソクの火を囲んで、3人で毛布に入るなんて……。 色んな意味で違和感はあるが、少しワクワクする楽しい夜になっていた。 鼻をくすぐられた気がして目を開けると、渡瀬さんが右肩に寄りかかり、反対側には栗栖社長。 辺りは明るくなっていて、いつの間にか眠っていたようだ。 『これ、どうしたらいいんだろう……』 何気なく前を見ると、長谷川社長が頬杖をついて足を組んでいて、目が合うとビクッと身体が震えた。 ――朝から嫌な汗が流れそうな気分だ。 「おはよ、無邪気に眠ってて皆で楽しそうだね……それ何の遊び?」 「――えと、昨日の停電気づかれました?」 「いや、知らないけど。俺だけ仲間外れ?」 「そ、そんなつもりはないんですが……」 蛇に睨まれた蛙のような気分だ。 静かなトーンで話しているが、冷やかな瞳を見ると絶対にご機嫌斜めなのが分かる。 「もう寝たフリはしなくていいよ」 「あ、バレてた?気づいたら眠ってたみたい」 渡瀬さんが背伸びをしながらアクビをしている。 起きてたんだと思うとちょっと恥ずかしいが、その事にも、長谷川社長の刺すような言葉も気にしている様子は全くない。 「じゃあ、朝食でも作るね」 スクッと立ち上がると、キッチンに向かい出した。 ところが、場所が空くと同時に長谷川社長が隣に滑り込んできて「俺も今から仲間入り」と毛布に包まると、私にしがみついてきた。 「――誰のせいで皆がここに来てるか分かってる?」 目を開けた栗栖社長が、そのままの姿勢でジロッと睨んでいた。 「なるほど、じゃあ桜、お詫びはチューでいい?」 飛び起きた私は、逃げるように渡瀬さんの所に移動した。 昨日から、いつのまにか呼び方が『桜』になっている。 「桜ちゃん可哀想に。いつもこんな感じで苛められてるの?」 「仕事中は全くの別人ですよ?」 「――逆に怖い。桜ちゃんここは気にしなくていいから、着替え済ませて来ていいよ?」 『しまった!スッピンなうえに部屋着のままだ』 慌ててパタパタと走って2階の部屋に急ぐと、ベッドサイドの電気を消し、身支度に取り掛かった。
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