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『厶、ムカつく』と思ったが、せっかくのコーヒーを台無しにしたくはない。
「いただきます」
言葉とは違いリキュールの入ったコーヒーはホッとするし、優しい口当たりで渡瀬さんも美味しそうに飲んでいる。
ロウソクの火を囲んで、3人で毛布に入るなんて……。
色んな意味で違和感はあるが、少しワクワクする楽しい夜になっていた。
鼻をくすぐられた気がして目を開けると、渡瀬さんが右肩に寄りかかり、反対側には栗栖社長。
辺りは明るくなっていて、いつの間にか眠っていたようだ。
『これ、どうしたらいいんだろう……』
何気なく前を見ると、長谷川社長が頬杖をついて足を組んでいて、目が合うとビクッと身体が震えた。
――朝から嫌な汗が流れそうな気分だ。
「おはよ、無邪気に眠ってて皆で楽しそうだね……それ何の遊び?」
「――えと、昨日の停電気づかれました?」
「いや、知らないけど。俺だけ仲間外れ?」
「そ、そんなつもりはないんですが……」
蛇に睨まれた蛙のような気分だ。
静かなトーンで話しているが、冷やかな瞳を見ると絶対にご機嫌斜めなのが分かる。
「もう寝たフリはしなくていいよ」
「あ、バレてた?気づいたら眠ってたみたい」
渡瀬さんが背伸びをしながらアクビをしている。
起きてたんだと思うとちょっと恥ずかしいが、その事にも、長谷川社長の刺すような言葉も気にしている様子は全くない。
「じゃあ、朝食でも作るね」
スクッと立ち上がると、キッチンに向かい出した。
ところが、場所が空くと同時に長谷川社長が隣に滑り込んできて「俺も今から仲間入り」と毛布に包まると、私にしがみついてきた。
「――誰のせいで皆がここに来てるか分かってる?」
目を開けた栗栖社長が、そのままの姿勢でジロッと睨んでいた。
「なるほど、じゃあ桜、お詫びはチューでいい?」
飛び起きた私は、逃げるように渡瀬さんの所に移動した。
昨日から、いつのまにか呼び方が『桜』になっている。
「桜ちゃん可哀想に。いつもこんな感じで苛められてるの?」
「仕事中は全くの別人ですよ?」
「――逆に怖い。桜ちゃんここは気にしなくていいから、着替え済ませて来ていいよ?」
『しまった!スッピンなうえに部屋着のままだ』
慌ててパタパタと走って2階の部屋に急ぐと、ベッドサイドの電気を消し、身支度に取り掛かった。
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