第8章

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「桜ちゃんには誤解も解いておきたいし……」と言われ焦ってコーヒーを吹きそうになる。 「私、誤解なんて……」と言ってはみたものの、後の言葉が浮かばず目を泳がせていた。 「結婚はまだ考えてないけど、決して男性に興味ある訳ではないからね。焦りがなさすぎて、誤解を招く事はあるけど」 照れるように話していても、口は動いているので4つ目のパンも、もう少しで終わりにさしかかっている。 「桜ちゃんの前で格好いいとこ見せようとしてるんだけど、いつも空回りしてる」 そんな事しなくても十分カッコいいのに、やっぱり可愛いなぁと顔の筋肉が緩んでしまう。 渡瀬さんと一緒にいると、ドロドロした気持ちが浄化されていくようで、社長達と微妙な関係を続けている私を、ピュアな空気で包まれたような気持にさせてくれる。 『こんな人が彼だったら、きっと幸せなんだろうな』 相応しいかどうかは別として、高橋さんが言ってたのは間違ってない気がする。 本来――私はこういう人がタイプで、趣味も合うし、仕事の事も理解してくれてるので、素の自分で無理なくお付き合いが出来そうだ。 女性として見てくれている自信もないが、社長達のせいで男性の言葉を素直に受け入れない性格になってる部分もある。 思わせぶりな発言や態度に振り回されたくないと、自然にブレーキがかかるようになってる気もする。 「渡瀬さんが本気になれば、彼女はすぐに出来ると思います」と全部平らげた姿を和やかな気持ちで見つめ、ポツリと呟いた。 「――桜ちゃんは、俺の事どう思ってる?」とコーヒーを一口飲んでから、大きな瞳がこちらを見据える。 「そうですね……『王子様みたいな方』ですかね」と正直に話したのに、渡瀬さんは頬を膨らませていた。 「それって、遠回しに『いい人止まり』って言われているみたい」 良い意味で『手の届かない王子様みたいな人』と伝えたかったのに、本人は気に入らないようだ。 女性に泣き顔を見せられた男性のように、どうしようとオロオロした私は「悪い意味じゃないんです」と必死にフォローした。 休憩時間が終わるのでとりあえず席を立ったが、部屋に戻るまで渡瀬さんに、いい所を挙げてどれだけ素敵かと伝えていた。
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