3人が本棚に入れています
本棚に追加
午後からの作業もメドがつき、続きは明後日。
栗栖社長と目をシバシバさせながら工場を後にする。
帰り間際も「桜ちゃんが意地悪言った」とまだ拗ね気味の渡瀬さんは、逆に可愛かった。
「桜に変な事でも言ったんだろ?その罰だ」
楽しそうにニヤッと笑って車に乗り込む社長とは正反対に「意地悪じゃないですからね」と必死で念押ししていた。
これ以上私を振り回す人が増えてもらっては困る。
助手席に乗ると、ドッと疲れが押し寄せてきた。
「――ところで、渡瀬は何で拗ねてたの?」
「『王子様みたい』って褒め言葉として間違ってます?」
「ああ、よく言われてるらしいが本人的には嬉しくないみたい」
何で嬉しくないんだろう、私は『お姫様みたい』なんて言われた事もないし、恐らくこの先もずっとない。
羨ましくて仕方がないのに、男性心も結構難しいものだなと1人でブツブツと呟きながら車に揺られていた。
「今日は時間も微妙だし、このまま直帰しないか?」
「いいんですか?では、高橋さんにメールで連絡しておきます」
こんな日はすぐにシャワー……が私の中で切り替えになってるみたいで、お腹が満たされて眠るとリセットされ、朝を迎えるというループが理想的だ。
高橋さんから「了解しました。お疲れ様でした」と返信を確認すると、社長にバレないように少し目を閉じてみた。
運転してる人には申し訳ないが、いつもより疲れて目も重たいので、少し休みたかった。
「――まさかとは思うけど、自分だけ寝ようとしてないよな?」
「と、とんでもないです。もちろん起きてます!」
意外とすぐに見破られいい訳がましく目を開けたが、普段そんなに見てないクセに、こういう勘は鋭いんだよなと前を見る。
もう少優しく気遣ってくれてもいいのに。
仕事は終わったんだしと、上司に運転をさせておきながら、心でこっそり愚痴ってみる。
『帰って何食べようかな……』
夕食を作る気にならないし今日はコンビニに行くのも面倒だ。
久々にピザでも頼もうかなと食べ物も事を考え、何気なく外の景色に目をやる。
「あの、社長……これ何処に向かってます?」
暗くなり始めているが、私の家方向の見慣れた景色ではなく、社長宅へ向かっている気がしていた。
最初のコメントを投稿しよう!