第8章

2/20
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「そんな熱さを持ってる奴は、俺の傍で軸がぶれないように見張って欲しいし、支えになってもらいたい」と真っすぐ見つめられた。 「見張り役……ですか?」と聞くといまいちピンとこない。 「俺の補佐かな?――たまに代わりになってもらう時もあるかも」 「えっ?!」と顔が強張った。 「でも楓も、サポート役は桜がよさそうなんだよな。そんなのコンサルタントに任せてしまえばいいのにさぁ」 出来れば私も経営の方の勉強よりも、まずはデザインを側に携わりたいと思っている。 もっと商品と触れていたいし、作る魅力に取りつかれているからだ。 「だから、俺に『人生の少しの時間』を投資してみてくれない?」と妙に神妙な面持ちで言われると、逆に戸惑ってしまう。 「はい、――そのつもりで働いてるんですけど」と普通に答えてしまう。 「いや、そうじゃなくて。なんて言えばいいんだろ、自分にイラついてくる」 拳を握り肘をついて頭を殴打するので、思わず社長の腕を掴んで止めに入った。 最近避けてたから、仕事を辞めるとでも思っているのだろうか。 掴んだ私の腕を、更に上から手で覆うようにして身体を引き寄せられると、ヨロッとして社長の膝の上に座る体勢になる。 顔が至近距離にくると、思わず目を伏せたが、肩をしっかり抱きしめられて鼓動が早まった。 ――我ながら、こういうとこ純情だと思う。 思わせぶりな態度は慣れた筈なのに、イチイチ赤面してしまい、身体の関係もあるのに頭が真っ白になるくらい動揺もする。 回された手が首元に触れ、ビクッと身体が反応し顔を近づいてきた。 ――久しぶりのキス。 避けてきたのに、どこかで嬉しいと思ってる自分が可哀想になってくる。 手を繋いでベッドに向かう時も、この先が分かっているのに、冷たく断る事もできない。 カーテンをしてもまだ明るいせいか、服を脱ぐと社長の胸板や腰回りが生々しく見える。 私もそんな風に見えてるのかと思うと恥ずかしくなり、顔が見えないように彼の首に手を回し、しがみついていた。 「これだと挿れるのムズいんだけど……」と耳元で囁かれドキッとする。 「あ、ごめんなさい」 枕に頭を置き正面で向き合うと、社長の顔も若干赤みがかっているのが愛おしく思え、見惚れていると照れ隠しのようにキスを落とされた。 ――そんな顔をされると、惚れた私が拒める筈もない。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!