第8章

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ギシッギシッとベッドが揺れる音が聞こえ、気まぐれな感情だと分かっていながら、また彼に身を任せてしまっていた。 少しの間は社長の腕枕でじっとしていたが、やはりシングルベッドに二人並ぶと窮屈で寝返りもうてない。 こっそり降りると服を着てソファに座り直した。 「桜、せめてセミダブルにしたら?」 「部屋がもっと狭くなるので、無理です……」 社長宅のように広ければいいけど、ウチにはそんな贅沢なスペースはない。 キッチンに行き、コーヒーメーカーをセットしておくのは、どうせ飲みたいと言いだすと思ったからだ。 「気が利いてるな。俺も、桜の感度が少し分かってきたと思わない?」 「そ、そんな事気軽に返答できかねます!」と顔が赤くなり、コーヒー豆をすくうスプーンを落としそうになった。 「まぁ、身体の反応で分かるからいいか」とこちらを見る視線とぶつかる目眩を起こしてしまうそうだ。 今までそんな発言聞いた事ないのに、まるで長谷川社長みたいだ。 『やっぱりこの人も色んな女性を相手にしてるんだな』と胸がズキンと痛み、少し距離も感じる。 ――アパレルブランドを立ちあげた社長でイケメンなんて、私が同じ空間にいる事すら本当は信じられない話だ。 コーヒーをテーブルに置く頃に社長もこちらに移動してきた。 「ダメだな……楓口調を真似てみたが、嫌悪感を与えただけだった」 「――そうですね」 気まずさが漂う中、お互い無言でコーヒーを口にした。 「はぁ……。テレパシーとかでチャチャッと伝わればいいのにな」と苦笑いする社長だが、私の気持ちが勝手に伝わっても困る。 むしろバレてないからここまで仕事もやってこれてるのだ。 コミュニケーション能力が低い社長が、何か言おうと苦戦しているのは分かる。 素直に気持ちを言ってもいいのかなと期待もしてしまう。 『でも、もし違ってたら?』 社長がハッキリ言ってこないのも、私が言いだせないのも『仕事』という壁があって、そこを越えれない何かがあるのだと思う。 いや、社長の場合は遊びと言い出しにくいだけかもしれないけど……。 仕事を辞める気なら後先考えず『好きです』と伝え、フラれたら気持ちの整理もつくかもしれないし、切り替えだって出来るかもしれない。
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