第8章

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駐車場に戻る際も『長谷川社長を宜しくアピール』を織り交ぜながら、会話をしてくる。 そんな上手くいかないし、長谷川社長に嘘ついてもすぐバレるとあまり注意も留めず聞き流していた。 「お時間頂いて、有難うございました」 「いえ、大してお役に立てそうもなくすみません……」 クスッと笑った高橋さんの意図は分からないが、ようやく変な密会から解放された。 明日からの仕事大丈夫かなと余計な不安を残しながら、その日の夜は中々眠る事が出来なかった。 翌週からは栗栖社長との行動が増え、渡瀬さんの工場へ何度か足を運んでいた。 セカンドブランドは高橋さんのチームが担当する事になったので、私達はLilyのみに集中する事が出来た。 長谷川社長の補佐は高橋さんやチームのメンバーが交代で来ている。 初めはムスッとしていたが、最近は指導にも力が入ってるという感じで、流れ的にはいい雰囲気だと思う。 今日も工場へ栗栖社長の車で向かっているが、渡瀬さんは最近出張している事が多くまだ顔を合わせていない。 ゲイのお店の近くパン屋さんの件から、日にちも経ったのでリセットした普通の顔で会えると思う。 私達が忙しくなる=渡瀬さんも連動してしまう――ので、仕事に追われているのかパン情報もあまり交換できていなかった。 「桜ちゃん、久しぶり!」 「――こんにちわ!」 工場に着くなり渡瀬さんが嬉しそうにお出迎えしてくれた。 「おい……俺の存在は無視か?」と後ろから栗栖社長が顔を覗かせる。 「ああ、試作品のサンプルあるからチェックしてみて。桜ちゃん、後で新作のパンメニュー食べようね!」 渡瀬さんは、新しい食堂のメニューを試食してもらうのが楽しみのようだ。 私も楽しみができてテンションがアガり、リストを持って別室でチェックする作業がスムーズに進んでいった。 「これ……メチャ可愛いですね、絶対売れそう!」 ラインも綺麗だし、オリジナル柄がとてもよく合っている。 どの商品も細部にまでこだわりが行き届いているので、店頭に立ってお客様の反応を直接見たいぐらいだ。 「これは肌触りもいい!色違いで欲しいです!」 手を動かしながら、イチイチ感想を言いたくなってしまう程、目がハートマークになっていた。
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