最終章 #2

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堵亜とのお付き合いを告白した時は、かなりショックを受けてくれたみたいで、――だけどパン仲間は続けたいと連絡があった時は凄く嬉しかった。 それからは変わらず、ギクシャクは殆どなく現在に至る。 今は仕事と恋を楽しむ事が出来ているが、勇気がなかったせいで、複雑な関係を持つ羽目になったような気もする。 でもこんなに穏便に済んだのは、逆にそれを経験したからかもしれない。 ――L-Roomの勤務希望者は今もいない。 社長達ももうお飾りは必要ないみたいで、今では私が最初で最後の『続いた女性』と噂が流れているようだ。 スタイルや顔は普通だけど、自社愛が半端ない女性……は嬉しいような、寂しいような。 何だか複雑な気持ちだったが『俺が可愛いって思ってるからいいじゃん』という、彼の言葉に支えられている。 ――堵亜にそう思ってもらえたら十分だ。 その日も、時計を見ると『打ち合わせ終わる頃かも』と思い静かに席を立ちコーヒーの準備に入る。 ドアが開くと「おはよ」と彼が少し疲れた顔で入ってきた。 机にコーヒーを置いて席に戻ろうとすると「堵亜だけズルイ、俺にも」と黙って様子を見ていた長谷川社長が口を開く。 「楓は、朝来た時に飲んだんだろ?」と反論する。 「――いや、飲んでない」と平気で嘘をつく長谷川社長に、呆れた顔の堵亜。 ここは穏便に済ませたいし、ついでに長谷川社長と高橋さんにもコーヒーを出し席についた。 「何か、便乗してすみません」 「いえ……」 大きな声を出したせいか、堵亜の顔が普通に戻っていて、何気ないやりとりも、この部屋ではコミュニケーションになっているのかもしれない。 面倒くさいような、楽しいような……私だけが知っている噂の続きの内容。 『社長達はイケメンだけど、この部屋に呼ばれたら、気に入らないとすぐクビにされる。選ばれる女性はスタイルも良くて美人ばかりのお飾り』 でも一旦ここのメンバーとして認めてもらえたら「甘えてきたり、可愛いトコもあったり、意地悪されながら成長させてくれるんだよ」と付け加えたい。 「休憩行ってきます」 彼は後から来てくれる筈と思いながら部屋を出る。 仕事も恋愛も両方手に入れる事ができたのは、私にとっては『L-Room』がきっかけだった。 目を細めてから、今日はどのパンにしようかと、ワクワクしながら食堂に向かった。
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