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最終章 #2
「あ……歯ブラシが置いてある」
髪を乾かしながら、ピンクの新しい歯ブラシに目が止まる。
堵亜が私の為に買って来てくれたものだ。
部屋着も女性用で可愛い物が置いてあり、どんな風にお店に入ったのか等を想像すると、笑いが出るほど嬉しくなる。
普段の社長とはギャップがあり過ぎる行動。
過去の女性関係は詳しく知らないけど、今だけは少し自惚れたい――『私だけの彼』だと。
この先浮気とかあるかもしれないし、泣く事だってあるかもしれない。
イケメンの彼女になった事もないので予測も不能だ。
「今までよりはステップアップしたと喜んでいいよね?」
微妙な関係から、晴れて一歩踏み出す事ができたのだ。
リビングに戻ると堵亜はほろ酔いなのか、カウンター越しに「……遅い」と陽気な雰囲気で言われ、かなり飲んだのかなと心配になった。
お酒には強い筈だから大丈夫だよね……とソファに腰を掛けると、堵亜も隣に座ってきて「桜は白ワインどう?」と勧められる。
「い、いただきます」
グラスと合わせるとキィ――ンと心地よい音が鳴った。
『――あれ?テーブルの上の教科書か増えてる』
もっと勉強しろという事かと思いながら、一口飲んで堵亜の方を見つめた。
「ああ、興味ありそうだったから持って帰ってもらおうと思って」
「あ、有難うございます」とお酒で顔が少し赤い堵亜に遠慮がちにお礼を言う。
「うん……でも、今日は敬語ナシにしない?」
近い距離で真っすぐ見つめられると吸い込まれそうになる。
間接照明の灯りと、手に持ってる細いボディのグラスは、大人な夜の始まりを連想させドキドキしてしまう。
彼は甘えるように私の肩に頭を乗せると「まだ飲む?それともベッドに行く?」
「えっ?」
雰囲気を楽しむどころか、ダイレクト質問に眼を丸くしたが「ベッドに行ってもいいですか」と自分の気持ちがポロッと零れてしまう。
自然と唇が重なり合い、お互いに顔を少し見つめると、堵亜の瞳にドクンと脈が波打ち目眩がしそうだった。
「敬語はナシだって……」
グラスとテーブルに置き、手を繋いでベッドルームに入って行く。
週末だけは敬語も立場も一時お預けで、お互いの体温を感じながら、今までも気持ち解放させるように、熱い夜を過ごしてしまう。
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