第1章

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車中は静まり返っていたが、たまに気を遣って高橋さんは社長に話しかけていた。 彼は生返事でタブレットで何かを見ている様子。 『どーせ聞いてないんだから、無理に話しかけなくてもいいのに……』 工場に着くまで私は、外の景色を眺め澄ました顔をしておいた。 緑に囲まれた山間に大きな工場が見えてきて、中に入って行く。 社長は車を降りると、ズカズカと歩きだして私は高橋さんの方を見た。 目が『ついて行って』と言うので、私も小走りに後を追う。 ある部屋に入ると、出来上がった生地が何種類も準備されていて、色番のタグがついていた。 「これ、品番とイメージが一緒かどうかタブレットで確認しておいて」 「はい、かしこまりまりました」 社長は私にタブレットを渡すと部屋を出て行ってしまった。 「これ、50種類以上はあるよね……」 ボールペンを手に早速照らし合わせの開始だ。 もともとのカラー品番は知っているので、大体は分かるが……新しい商品は少し時間がかかる。 しかも、私はタブレットを使う機会がないので、操作もまごついてしまう。 終わった商品タグに印をつけ、必死になって作業を進めた。 『丁寧に引き継ぎ……なんて全く嘘じゃん』 何時までに終わればいいのかも分からず、出来るだけ早く片づけないと……と気持ちが焦る。 汗が滲んでくるぐらい、大量の生地と格闘していた。 こんな作業するならデニムとTシャツで来たいぐらいだ。 作業はいつもしている事なので、終わる目星がついてきたが、しゃがんだり立ったりの繰り返しで腰が痛い。 『ちょっと休憩しようかな』 要領がよく分からない所での作業は、いつもより疲るのが早い気がする……。 朝から神経も使ったので精神的にもバテるのかもしれない。 「さて、後少しだから片づけるか」 タブレット操作も少し慣れたので、初めよりはスムーズに進んでいる。 最後の照らし合わせを終える頃には、靴のせいで足の指がジンジンと痛みだしていた。 『終わったけど、これからどうすればいいんだろう』 社長は部屋に居ないし、この工場に来たのも初めて。 ――喉も渇いたし、お腹も空いていた。
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