第2章

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「僕もここのパン好きなんですよ!フレンチトーストもおススメで隠れメニューなんですよ」 「そうなんですね!スイーツに力を入れてる食堂があると、テンション上がります」 「食べるって大事なんで、男性も女性も楽しみにしてもらえる食堂がある会社っていいですよね」 ひょんなきっかけからだが、優しい青年と話が弾んでいた。 「申し遅れましたが、私…坂田桜と申します」 朝から名乗る機会がなかったので、自ら名前を言ってみた。 「僕は渡瀬と言います。宜しくお願いします」 そろそろ戻った方がいいかと思い立ち上がると「珍しいな、渡瀬が女性と話してるなんて」と社長が近づいて来た。 休憩が長いとお叱りを受けるかとヒヤヒヤしたが「作業は片づいた。あんたが完璧にしてくれてたからチェックは楽だった」 『良かった!怒られずに済んだ』とホッと胸を撫で下ろす。 「自分の部下をあんた扱いはないんじゃない?」 「今日来たばっかりで面識ないし、これから慣れるんじゃないの?」 どういう関係かは知らないけど、渡瀬さんとウチの社長はタメ口で話せる仲みたいだ。 「相変わらず冷たい奴だね……」 「お前だって、普段俺が連れてきた部下と話さないだろ?」 「坂田さんは今までの雰囲気と違って話しやすそうでつい…」顔を赤らめて言われると、こちらもドキリとする。 「時間が短縮できたおかげで、他を回れそうになった。高橋が待ってるからそろそろ行くか」 社長と私が帰ろうとすると「坂田さん、またね」と渡瀬さんは笑顔で見送ってくれた。 それからの予定も慌ただしく、展示会の準備の仕上がりをチェックしたり、打ち合わせをしたり、何箇所も移動し食事は車の中で軽く済ますという具合。 思ったよりハードな日々を過ごしているんだなと感心する半面、慣れない仕事に疲労困憊していた。 夜になると、職場に戻ってパソコンに向かう社長。 私は高橋さんに教わった雑務を黙々とこなしていた。 ――気付けば夜の21時を回っている。 『いつ帰れるんだろう』 今までなら大体20時頃には仕事を終えて帰れていた。 これからは社長のOKが出ないと帰れないのかと思うとゾッとしてくる。
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