第1章

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「桜ちゃん…私考えてみたんだけど、むしろ引き受けて成果を出して、自分の意見を言えるようになるってどう?」 そういう考え方も一理ある……。 この会社もここの洋服も好きだから、できれば辞めたくない。 ――誘いを断る事で、部長にも迷惑がかかる。 でもハッキリいって自信は全くない! 「私に勤まるんでしょうか」 「交渉はしてみるけどね…ダメならウチの部署に返して下さいと条件を出すつもり。桜ちゃんには、まだ教えたい事も沢山あるから」 育てようとする上司がいて、私もついて行こうとしてるのに…何で引き離されるのか納得はいかない。 ――が、渋々承諾する事にした。 「今日は退社してゆっくり休んで。明日からバタバタしそうだし、待ち合わせはここで9時だから」 「はい……有難うございます」 「引き継ぎは、私が全部引き受けるから」 話が終わると、そのまま荷物を持って帰る事になった。 今日まで真面目に働いて、慣れた頃にこんな話になるとは夢にも思っていなかった。 足取りも重いし、先の事が全く見えない。 同じ会社でも、部署が違うだけでこんなに気分が沈んでしまうとは……。 明日からの職場はきっと別世界だが、弾む気持ちにはなれない。 私は一体何の役に立つんだろう…? 「おいっ!人はまだ調達出来ないのかよ?」 ――社長室は資料やスケッチが散乱している。 「お前が又、女の子を追い出すからでしょ?」 「服にも仕事にも興味ない女なんて、邪魔なだけだろ?お前が好きな『経費削減」だ」 「まぁ言われればそうだけど…俺は目の保養になってたけどね」 男性は資料に埋もれているのが飽きたのか「あとは高橋に任せるか」と放置していた。 「そういえば明日から来るらしいよ?お前の希望通り『服にも仕事にも興味ある子』ショップスタッフ上がりで、本社勤務の希望出した…」 「あぁ、商品説明作ってる子?」 「えっ?知ってんの?」 男性はこれ見よがしに冊子を出すと「確かにこの子は服と仕事を愛してる気がした!顔は見た事ないけど」とニンマリと笑っている。 「では、ご対面は明日として…今日は帰りますか」 ――時計の針は午後23時。 それが、仕事時間切り上げの合図となった。
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