第4章 #2

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「ここの食堂も美味しいものが揃ってるよね。昼を食べるの楽しみで早めに来たんだぁ」 何となく騙された気がして苦笑いしか出てこない。 『社長さんなら言ってくれてもよくない?』 次々とパンを平らげる姿を見ながら、気疲れが倍増するような気持ちになった。 「桜ちゃん、僕の事は梓(あずさ)で構わないからね」 「……はい」 ザワザワしている広い食堂の中、静かなトーンで話してくる渡瀬さんの声が、何故か通って聞こえる。 まるでレストランに2人で食事にでも来たように。 人が少ない所を選んでしまったのだろうか。 開放的な広い食堂でリラックスできる筈なのに、緊張しているのが自分でも分かる。 取引先の社長と知った今、何を話していいのか急に困っていた。 「桜ちゃん、どうしたの?昨日と様子が違うよ?」 『あなたのせいなんですけど!』 パンを食べるのを止めるくらい心配してくれるので「社長とは知らず、色々申し訳ございませんでした」と伝える事にした。 「ああ、そんな事気にしないで。僕達パン仲間でしょ?」 安心したのか、又パンに手を伸ばし始めている。 それからは、おススメのパン屋さんの事を教えてもらったり、今ハマってるパンの種類を言い合ったり、少しずつ会話を楽しみ始めていた。 「あ、栗栖だ」 珍しく社長が食堂に足を運んでいる。 辺りを見回していたが私達を見つけると、こちらに向かってきた。 「俺、いつもここに寄って行くのバレてんだよね」 私の隣に座ると「やっぱり寄ってたんだ」と呆れた顔でトレイのパンを見ている。 「私、飲み物買ってきます」 社長の飲み物を買うという理由で席から一旦離れる事が出来た。 アイスコーヒーを買いながら2人の様子をチラッと伺う。 何やら話し込んでいるので、飲み物を置いたら他の席に移ろうと気を利かせる事にした。 トレイを下げようとすると「何処へ行く?」と社長に突っ込まれた。 「いえ、お邪魔かと思いまして」 気を遣ったのに、なんで止められるのか不思議に思っていた。 「ーーパン仲間になったらしいな」と上目遣いで見られる。 早速情報が伝わっていて思わずドキッとした。 《2話へ》
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