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私の言うことは何でも聞いてくれていた慶一さんが、なぜかここは粘り強く競ってきた。
慶一さんは、社長さんの機嫌をいつも気にしていた。
デートのときも。行きたいところ、食べたいもの、何でも希望を聞いてくれて、それで私から目を逸らさず全てにおいて気を遣ってくれていたのに、それでも会社の、社長さんからの電話には、私に断りを入れずに出ることもあった。
優先順位は、私より社長さんの方が上なのである。
私の職探しが、慶一さんを不甲斐ないと思われる要因となることを恐れているのである。
おそらく、私が壊してはいけないものは、ブロック型の栄養補給食品でも、ミント味のガムでも、生活感のないこの部屋でもない。
慶一さんにとっての社長さん、きっとそこなのだ。
そこだけは私が崩していいものではないのだ。
しかし私は、なぜか、今までで唯一、ここだけはぶち壊さなければ気が済まなくなった。
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