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慶一さんが仕事に出掛けてすぐに、私はユリカに電話をかけた。
『なによ、私忙しいんだけど』
電話をかけるとユリカはいつもそう言うが、子供もいない専業主婦で、ついでに医師である夫も帰りが遅く、忙しいわけがないのを知っていた。
「いや、昨日は電話で最高って言ったんだけどさ、そうでもないかもしれないと思って。この同居」
日常的に連絡をとる友達は、ユリカしかいなかった。
だから誰もが羨むような玉の輿婚を控えていても、それはユリカにばかり報告するしかなかったのだ。
『なんで。若くて格好いい、大企業の御曹司で、しかもそれが優しくて爽やかで言うことなしだって、夢が現実になったって言ってたじゃない。それがなんで一晩で変わるの。夜がダメだったの?』
「いや違うの。ソッチは関係ない」
『じゃあ何』
「というかそもそも夜はなかったの。ダブルベットだけど。さすがにまだ早いんじゃないかって気もするし。ほら、婚約したからってすぐ寝るなんて、なんだか通過儀礼みたいじゃない?」
『へえ、で、何』
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