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「なんか、私、このままじゃ堕落していきそうで」
ユリカはこの電話の中で初めて、興味ありげに間をとって聞き返してきた。
『堕落? どういうこと?』
「あっちは、すごくきちんとした性格なのかもしれないのよね。毎日決まったことを決まった順序でこなしていくの。思い返せば前からそうだったもの。デートは二回だけしたけど、そのときもきっちり十五分前にきてた。助手席にウェットティッシュを用意してて、食事後にミントのガムもくれた。ガムは残り少なかったから、日課なのよ、食事後にガムを噛むことが」
『……別にいいんじゃない? 清潔で気が利く良い男にしか思えないんだけど』
「それだけじゃないの。私のつまらない話も聞いてくれて、私の希望を真っ先に聞いてくれるの。多分、ガムの味も、ミントじゃなくてグレープがいいって言えば、すぐに替えてくれると思う」
『最高じゃない。うちの旦那はそんなことしてくれないよ。まあ、それどころか何にもしてくれないけど』
「そうなの? 浜田先生って、家事できるイメージなのに」
『うちの旦那はどうでもいいよ。で、それの何が問題なの?甘やかされて堕落しそうってこと?』
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