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地獄の子供
「こんなところで油売ってていいんですか?閻魔様」
澄み渡った水面のように爽やかな声だった。
例え盲目の者がその声主と言葉を交わしても、眼を焼くほどの白さ、を印象付けられる、そんな声だった。
声が人々に与える印象の通り、声の持ち主は、女と見紛う程美しい顔をしていた。
纏っている白いローブも相まって、神々しささえ感じるその青年は、肩に触れないよう丁寧に切り揃えられた黒髪を揺らすこともなく歩行し、優しさに満ちた薄い唇で、目の前にしゃがみ込んだ迷える人を見下ろしている。
「お前こそ、神様が煙草なんか吸って良いのかよ」
それに答えた声は、圧倒的な赤、を思わせる声だった。
地の底をぐらぐらと煮だって這い回り、いつ地上に吹き出して触れるもの全てを燃やし尽くか分からないマグマの色。
喪服を身に纏い、邪魔な毛先を適当に散切りにした黒髪を荒々しく揺らして白い声に振り返った青年は、口に啣えていた煙草のフィルターを噛み潰して、同じ銘柄の煙草を口に啣えて莞爾として笑う白い青年を睨み上げる。
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