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「火をおくれ。地獄の業火で吸う煙草が旨いんだ」
「だから。神様が地獄で煙草なんか吹かしてて良いのかって訊いてんだ」
喪服は問いを繰り返しながら、それでも口に啣えたまま差し出される煙草の先端に、わざとらしく溜息をこぼした。“わかったよ”と諦めの句も一つ付け加えると、喪服の腰にぶら下げていた日本刀の柄を掴み、少しだけ根本の刃を引き出すと、その刃に親指の腹を押し当てて小さな傷を刻む。
親指から溢れたのは真っ赤な血には違いないが、その血はじゅうじゅうと煙を立てて、溢れる側から喪服の袖口を触れてもいないのに焦がしていく。
だが二人の青年はそれに驚く素振りすら見せず、白いローブは、その血を押し当てられた煙草を旨そうに吸う。
「神にも休息は必要でしょう、ブラック企業じゃああるまいし。父だって、私の見た目に色々禁じることは出来ても、肺の中まではねぇ?気が回りませんよ、何せ、父は“人を視ること”に忙しい」
美しい顔に似合わない煙草を何処か上品に啣えながら、神と呼ばれる青年は肩を竦めて微笑む。その微笑みには、何処か感傷的な節が、閻魔には読みとれた。
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