地獄の子供

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「継いだんだろ?カミサマ。うちの親父と仲良く揃って隠居したって訊いたぜ、お前の親父も」 「ええ。全く、自由な父を持つとお互い苦労しますね、(エン)」 閻。清らかな声がその名前を象った瞬間、黒い青年は表情を陰らせ、朗らかな空気を断ち切るような低い声を絞り出す。 「……その名前で呼ぶな。もう俺は閻魔を継いだんだ」 「そんなに変わりゃしないでしょう?閻魔の一番目の息子だから“閻”。随分投げやりな名前だと思ってたら、継いでからも名前を呼んで貰えるように、ってなかなか見た目に似合わず可愛らしい考えをお持ちなんですねえ?あなたの父上」 代わって白い青年は微笑みを絶やすことなく、閻魔が俯いたまま何とも言わないことを良いことに、口上を続ける。 「父は、神として人を裁くことを望まなかった。だから、世界で一番初めに死んだ人間を閻魔(つまりあなたの父上ですが)とし、人を裁かせることにした。だけれど、閻魔になるということは“人としての名を捨てると言うこと”。閻魔、は役職の名で人の名前ではありません。だからこそ、あなたの父は閻魔を継ぐことになったとしても、皆に気付かれずとも“人として”名を呼んで貰えるように、閻、なんて名前を付けた」 「…………」 「次男が生まれていたら、魔、とでも名付けたのかな?あはは、人の思いやりってへんてこで面白い」
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