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「俺達、別れないか?」
苦渋の決断だった。
「何で?どうして?」
「俺は名古屋に転勤が決まった。お前は転職が決まった。お互い忙しくなるだろ?」
「そうだけど、連絡取り合ったり、時間見つけて会ったり出来るじゃない?」
「俺は名古屋から千葉まで、頻繁には無理がある。それに、お前の夢を尊重したいんだ。今年は勝負なんだろ?」
「・・・まぁ、そうだけどさ」
ユリは、兼ねてから夢だった建築士の資格を取り、有名な建築家の事務所に就職が決まった。
都内駅前の音楽ホールのコンペを勝ち取る為に、ユリは、忙しい日々を過ごしている。
「別に今生の別れをする訳じゃない。俺達は、前向きな別れをするんだ」
「前向き?」
「お前は夢の為に。俺はお前の為に」
「私の為に?」
「そう。何事も中途半端は行けない。それなりに、その夢の実現に正面から全力で向き合わないと駄目だろう?連絡も控えよう」
「でも、別れなくたっていいじゃない?」
「いや、駄目だ。これから先、お前は休みもなく仕事に励み、ハードな生活をする事になる。お前の体が心配何だよ。そんな状態で俺に会ってみろ?」
「でも・・・」
「・・・3年だな」
「えっ!?」
「今度、名古屋から千葉に帰って来れるのは」
「・・・」
「3年後、俺はまた必ず戻ってくる」
「でも、3年は長すぎるよ・・・」
「大丈夫、心配するな。お前が立派な建築家になるには、3年で足りるか?5年いや10年かな?」
「失礼ね!十分よ、必ず立派になって見せるわ!」
「・・・そうか、安心したよ」
「・・・何よ」
「頑張れよ。必ず・・・必ず、夢叶えろよ」
「わかったわ。あなたも私に3年会えないからって、向こうで他に女作っちゃ嫌よ?」
「馬鹿野郎!そんな訳あるか!」
「本当かな?」
「お前だけだよ、本当に・・・愛してる女は」
「ありがとう。私、待ってるわ。あなたの帰りを」
「あぁ、待っていてくれ。そうだな、待ち合わせ場所でも決めるか?」
「そうね・・・じゃあ、またここにする?」
ユリが指差したのは、近くに聳え立つ桜の木だった。
「あの桜の木の下でどうかな?」
「わかった。じゃあ、3年後の春にあの桜の木の下で」
「うん、私待ってる。あなたの帰りを待ってる」
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