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彼女は外国の人かもしれない。顔立ちこそ、京で純粋培養されたお嬢様といっても通じそうではある。でも、アジア系の国には、日本人に似た顔をして人だってたくさんいる。少し前に流行った韓流ドラマだって、日本人に瓜二つ人ばかりだったし。ハーフとか、クオーターとかの可能性だってある。
「どこから来たんですか」
「ベトナムです。ホーチミンから」
ベトナム。その単語を口の中で繰り返す。僕は気の利いたことを言おうとした。けれど、何一つ思いつかなかった。考えてみれば、僕はベトナムについて、恐ろしいほど何も知らなかった。韓国や中国ならよく知ってる。キムチ、パンダ、万里の長城。さらさらって思い浮かぶ。でも、ベトナムだ。王制なのか、共和制なのか、はたまた社会主義なのか、それさえ知らなかった。場所はどの辺だろうか。タイとか、シンガポールとか、あの辺だったような気がする。ホーチミンってどこだろう。岡山県。みたいなものだろうか。公用語はベトナム語だろうか。名産物は? 国教は? 首都は? 首相の名前は?
「遠いところから、来たんですね」
そんな言葉をどうにか絞り出した。難解な問題を前にして、時計をじっと見ているような、そんな感覚が僕を襲った。要するに、
僕は十八歳で、
未成年で、
高校生で、
子供で、
自分の事に精いっぱいで、
小さいことにすぐ心が揺さぶられて、
社会の事なんて分がってるようで全く分かって無くて、
たった一国の場所さえ知らなくて、
だから何も知らなかった。
「ええ」
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