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改めて、少女の切符を見る。僕の切符と、番号以外が瓜二つである。新幹線自由席、岡山行き。つまり、僕と同じ新幹線である。そのことを説明する。分からないと言った風に首をひねる。ちくしょう。単語を区切ってこれでもかというほど丁寧に説明する。コクコク頷く。よし。間もなく発車いたします。ブザーが鳴る。二人で飛び込んだ。気が抜ける音が耳に届き、やがて後ろで扉が閉まった。
新幹線は揺れ一つなしに動き始めた。通路に人こそ立ってないが、見渡す限りほぼすべての席が埋まっていた。学生は見る限り一人もいない。ぐったりしたサラリーマンたちを見ていると、これが新幹線でなく、戦地引き上げの兵員輸送車であるかのような錯覚を覚える。
偶然、三人向かい合う席の一つがあいていたのでそこに彼女が座った。僕が他に開いている席を探しに行こうとすると、少女は真正面を指差した。そこには席を堂々と一つ占拠して、小汚い革のバッグが一つ座っていた。視線を横に滑らせる。四、五十くらいの中間管理職然としたおじさんが、携帯をイジイジしていた。
いかにも私は仕事帰りです。疲れています。不機嫌です。そういった雰囲気を、全身から放出していた。
もう一度車内を見まわす。空席はなし。
覚悟を決めて深呼吸一つ。
すうっ。
「あのっ!」
スーツ姿の男の目がギロリとこちらを向く。僕の目は勝手に上下左右に動き始め、続けようとした言葉が消えた。妙に雑音が頭の中に入ってくる。新幹の駆動音、キーボードがカタカタ叩かれ、誰かがビールをうまそうに飲んで、赤ん坊がどこかで泣き始めた。
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