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そんな僕を余所目に、彼は僕から自分のバッグに目をむけ、それから再び僕に目を戻し、そこでやっと得心したように、
「ああ、すみません」
よっこらせっと、バッグを膝の上に乗せ、再び携帯に没頭し始めた。僕は席に縮まるようにして座った。
三時間。
駅から岡山までの時間である。それがどれほど膨大な時間か理解できるだろうか。時は金なり。タイムイズマネー。時給九百円のバイトなら、二千七百円にもなる。
二千七百円。にせんななひゃくえん。
一日中カラオケで歌ってもおつりがくる。ゲームセンターのゾンビを倒すゲームなら余裕でクリアできる。ファミレスで一番高いステーキだって食べられる。おまけにデザートだってつくかもしれない。
高校生男子にとってはそれほどの大金だ。さらに「受験生の」と頭につけば、百万、いや、一千万の価値がある。
僕は物理の参考書を開いた。新幹線は滑らかに揺れひとつなく走っている。熱力学の公式が顔を出す。WとかUといった文字が踊り始める。うむ。物理は良い。自然の何もかもが公式一つであらわされるのだ。
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