新幹線

5/13
前へ
/13ページ
次へ
 あれはピカピカの高校生になりたての頃だと思う。鉛直投げ上げの問題を解いていた。速さをXとして公式に代入する。解が出ない。おかしい。一から見直す。ああ、二を掛け忘れてた。すらすらと解くと二次関数が出てくる。おかしい。僕はある高さでの速さを求めている。ここまではいい。二次関数というものは答えが二つ出るものだ。速さが二つ? ありえない。首をかしげながらXの値を求める。やっぱり答えは二つ出てくる。そこでようやく僕は気付いた。投げ上げられ、落ちてきたボールは二回同じ場所を通る。ああ、だから二つ答えが出るのか。  よく考えてみれば子供だって分かる当たり前の話だ。でも、その時の僕は、ツチノコを見つけたような、あるいは世界の秘密のうち一つを暴いたみたいな、要するに、万能感に酔ってたんだろう。  ジュールの顔写真が笑いかけてきたところで顔を上げた。の前にはさっきの少女が座っている。手を膝の上に乗せ、じっと窓の外を眺めていた。日はすこしずつ傾いてきていた。アパート街を抜けて、農園地帯が来たと思ったら、ビルが立ち並び始める。そういったものを後ろへなぎ倒し、新幹線は走っていく。何の変哲もない景色だと思った。これをずっと眺めろっで言われたとしたら、僕は拷問としか思えないだろう。なのに、少女は目をキラキラと輝かせながらそれを見るのである。不思議でしょうがなかった。  白いキャペリンは相変わらず彼女の頭を食べようとしている。その帽子の別称は、女優帽だとテレビのクイズ番組で売れない芸人が自慢げに話していたのを僕はなぜか覚えていた。  ふと、思う。     
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加