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肌を切り裂くような早朝の冷気が全身を包み込み,千切れるような耳の痛みに耐えながら 4人の高校生が神妙な面持ちで曇天の海を眺めていた。
彼らが通う高校の前には大きな駐車場があり,夏場の賑わいとは対照的に冬場は観光客もまばらで週末に開催されるフリーマーケットやテレビや映画の撮影でもないかぎり賑わうことはなかった。その駐車場のすぐ下には申し訳ない程度に砂浜が広がり,コンクリートの階段で砂浜に降りることができた。
いまにも雨が降りそうな重たい雲の下で,数人のサーファーが黒く濁った海の上を漂っていた。
ほんの数日前のことだった。高校のボート部が廃棄処分にするために練習用の5人乗り競技用ボートを校舎の裏に隠すように置いているのを目撃した。
素人目にはやけに細長いが立派なボートで,古そうにも見えず廃棄処分にする理由がわからなかった。船体を触ってみても穴があるわけでもなく,亀裂がはいっているようでもなかった。
まだまだ現役にしか見えないボートに貼られた「廃棄」の張り紙が,「死亡宣告」のように見え,4人を安楽死を待つ競走馬を黙って見ているような複雑な気持ちにさせた。
そんないつ廃棄されるのかわからないボートを眺めながら,高校生活の想い出にみんなで海に出てみよう,このボートに最後の海を味あわせてやろうと軽いノリで盛り上がった。
そして誰もいない休日の朝,4人は廃棄されるはずのボートを無断で担ぎ出した。
ボートは見た目以上に軽く,4人いれば簡単に運ぶことができた。しかしオールがついておらず,各々がオールの代わりになりそうな板や玩具のパドルを事前に準備して持ち寄っていた。
そしてボートを人目から隠すように駐車場のアスファルトの上に置くと,すでに30分以上寒空の下で海を眺めていた。
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