船幽霊

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思っていた以上に冷たい風に,誰もが『寒いから面倒臭い…濡れるのやだな…誰かやめようって言わないかな…』と心の中で愚痴をこぼした。 誰もが最初に言葉を発するのを避け,その間ずっと身動きひとつせずに腕組みをして黙って海を眺めていた。時折,サーファーが波を求めてポイントを移動する程度で,どんなに海を眺めていてもなにも変化はなかった。 「なぁ…ボート部の連中がいつも湾のなかで練習してんのは見てたけど,こんな細いボートでどこまで行けんだ…? あそこに出たらヤバイだろ…」 津田敦が不安そうに湾の向こうに見える,線を引いたようにそこから先は海が色濃く変わるあたりを指差した。 「そうだよな…。やっぱ,湾からは出ないようにしたほうがいいよな…」 斎藤裕二も敦に同意するように,湾の先を見つめた。誰も2人の意見に反対する者などおらず,ただただ黙ったまま,誰が先に「海に入ろう」と言い出すかを待っていた。 「潮の流れは大丈夫だろ…。それに今日はとくに波も穏やかだしな…」 野村修一が誘い水を向けたのを誰もが気付いていたが,その言葉に応える者はいなかった。
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