船幽霊

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適当に身体を動かしてからボートを頭上に乗せて駐車場の階段を降りると,わずかに残された砂浜から波打ち際をボートを滑らせるように海面に浮かべた。ボートは(わず)かに沈んだ程度で,波の抵抗を受けながら目の前でまだまだ現役でやれるとアピールしているように見えた。 「で…どうやって乗んだよ…? これ…?」 波打ち際で不安定に浮かぶボートを見ながら,どうしたらよいのかわからず4人揃って立ちすくんだ。 「なぁ…これって…いきなり濡れるパターンじゃん………」 しばらくして,1人だけ長靴を持ってきた香取仁が膝下まで海に入り船尾を掴み,ボートの尖端を沖に向けて波の影響を少なくした。仁がしっかり抑えている間に慎重に,そして恐る恐る順番に乗り込んだ。1人乗り込むごとにボートが沈み,すぐに船底が砂地に届き固定された。 最後に仁がボートを押し出すように浮力を感じるところまで行くと,ボートに飛び乗ろうとした。片足がボートに掛かった瞬間,仁は脚を滑らせそのまま頭から冷たい海に沈んだ。 その音に全員が振りかえったが,波の間から飛び出すように現れた仁を見てなにも言えず,黙って前を向いてオールを漕いだ。 ムキになった仁は力を込めて船尾を力強く押すと,3人を乗せたボートは仁を波打ち際に残したまま目の前の白い波を乗り越えるようにして勢いよく進んだ。 「じゃあ,仁。学校に戻って着替えてこいよ! そんで,ゴールに先回りしてくれ!」 「仁,岸から動画撮ってくれ! お前,撮影担当ってことで! よろしく!」 仁は岸から大きく手を振りながら「ゴールってどこだよ!」と叫び,階段を駆け上がって行った。
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