船幽霊

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ボートがようやく停まったのは,かなりの沖合に出てからだった。曇天の空があたりを暗くし,100メートル先になにがあるのかさえわからない状態だった。重い霧が3人を乗せたボートを包み込み,時間も場所も,そして方角すらわからなくなっていた。 3人は震える身体を必死に擦りながら,辺りを見回していた。波と風の音だけの世界は,この世とは思えなかった。波がなくなり,まるで磨き上げられた鏡の上にボートが浮かんでいるような感じがした。 「やべぇな………。こりゃ,マジで遭難ってレベルじゃね…」 「ってか,どこだよ……ここ……」 「帰れっかな………」 ボートが進んでいるのか,その場に停まっているのかすらわからなかった。海面を覗き込むようにして見ると,まさに鏡のように自分の姿が写し出された。 「すげぇな……海ってこんなに反射するんだ……?」 「裕二,なに言ってんだよ…反射なんてする訳ねぇだろ……潮の流れがあんのに……」 「でも…鏡みたいになってんぞ…。敦,修一,見てみろよ……」 敦と修一がボートから落ちないように気を付けながら,覗き込むようにして海面を見た。 「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 敦と修一が同時に叫び声をあげると,裕二も驚いて一緒に叫び声をあげた。
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