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上野公園に花見客や家族連れが多いのも当然だ。
「まァ休みってももうすぐ店ァ畳むから、休みだらけになンだけどな」
「『水物の人気商売は大変』って言ってましたし、お店を畳むって、商売が厳しいんですか?」
「へっ、俺ァ調子悪ィけど店は人気なんだぜ? けどもう歳だかンな、祭り、この花見の時期が終わったら区切りにすンのよ」
「そう、ですか。誰かに譲らないんですか?」
「ちっと訳ありでアイツと子供は作らなかったかンな。いいじゃねえか、俺の城は俺が始めて俺が畳むんだよ。アイツももう死んだしな」
「奥様と二人三脚でやってこられたんですか? 亡くなられて、だから」
「関係ねェって。ンなことでクヨクヨしてたらアイツに怒られちまう」
「尻に敷かれてたんですね。なんか意外です」
「どうだか。兄ちゃんどうせひまなんだろ? 年寄りの繰り言でも聞いてくか?」
「ぜひ聞かせてください」
「はっ、作家先生ってのは物好きだねェ」
不忍の、池のほとりのベンチで。
ジジイはニカッと口を歪めた。
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