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【2】
八月、上野恩賜公園の不忍池のほとりにある瀟洒な建物が人で賑わう。
昭和四十年、すでに老舗だった上野精養軒が、夏の盛りの庭園に卓を置く。
普段はお高い西洋料理店が手頃な価格で提供するビアガーデンは、上野恩賜公園の夏の名物となっていた。
「ずいぶん長い御手水でしたね」
「昨日ちッとばかり飲み過ぎちまってな」
「あら、そうなのですか? 今日は私とのデートですのに」
「店をやってッといろいろ付き合いもあるンだよ」
三十歳過ぎだろうか、べらんめえ口調の男はぽりぽり頬をかく。
ピンと背筋が伸びた女性は、口元に手をあててクスクス笑った。
「そういうことにしておきましょう。でも、女性を一人で待たせるなんてよろしくなくてよ?」
「はいはい、次ァ気をつけるよ。おい兄ちゃん、麦酒をひと瓶」
「ボウイさん、ビールは二瓶お願いします。それと、ソーセージの盛り合わせもいただけるかしら?」
日よけの帽子を傾けて微笑む女性に、ボウイはかしこまりましたと一礼する。
気取ってやがると男はふてくされ、それを見た女性は仕方のない人ね、と笑った。
「こういうのはお嫌いなのかしら?」
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