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サプライズな彼女。
「ターくん、パンはパンでも、食べられないパンってなーんだ?」
ミアは突然そんなことを言い出し、ぼくの方を振り返ると、にっこりと笑った。その可愛らしさとまぶしさに、胸のあたりがきゅっとなる。
彼女の手にはホットドッグ。だからそんなナゾナゾを思いついたんだろう。素直というか単純というか、そういうところも魅力的だ。
「んー……フライパン?」
答えたあと、普通すぎる答えだったかもと、ちょっと後悔する。
が――。
「ぶっぶー! 正解は、ホットドッグ型ライフルでしたー!」
「はい?」
正解は、ぼくなんかの想像力じゃ捕捉できないくらい、はるか上空にあったわけで。
そんでミアは、キラキラと目を輝かせながら、ホットドッグ型ライフルとやらでぼくを撃ってくるわけで。
「ターくんを驚かせようと思って、こっそり教習所に通ってたんだー! 教官にもねー、ミアちゃんすっごく上手だねって褒められちゃった! てへ♪」
いや『てへ♪』じゃなくて。
ミアの放つ銃弾は、的確にぼくの周囲に生えてる草やら、転がってる空き缶やらを撃ち抜いていく。
「ミア、ちょっと、おおち、落ち着いて……!」
ぼくに当てる気はなさそうだけど、そういう問題ではない。へたり込み、弾丸の雨を眺めながら、この半年間のことをぼんやりと思い出す。
彼女はやたらとサプライズが好きだった。段々エスカレートしてくなーとは思ってたけど。
「そういえばね」
恐ろしい音は突然止む。ぼくがほっと息をつくと、ミアはまた天使のような無邪気で愛らしい笑顔を浮かべていた。
「う、うん……」
「今日ってさ、ターくんの誕生日じゃない?」
すっかり忘れてた。というか、すっかり頭から吹っ飛んでた。
付き合ってから初めての誕生日。特別な日になりそうで、ドキドキして……いや、今もドキドキはしてる。ずっとしてる。
「そ、そうだけど……ぼくはこう、静かに、平和にすごしたい気分っていうか、サプライズはもう十分かなーなんて」
「ミアから、とっておきのプレゼントがあるんだー♪」
こっちの話など全く聞いてくれず、うきうきと手をカバンの中に入れ始めるミア。
ぼくはこれからのことを思い――ただ天を仰いだ。
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