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その晩、夢を見た。目を開けると椿がこちらの方を見ていた。血の気はないのに唇だけは真っ赤だった。
「ひどいことしてくれてるね」
「……日頃の行いよ」
色々なことがありすぎて、こっちはタバコすら吸ってないのだ。やっと夢の中で一本手に取って火を点けた。
「まさか死ぬとは思ってなかった」
「ああそう、こっちは死ねって思ってた」
「聞いてた聞いてた。お姉ちゃんがいたときまだ意識あったし」
衝撃だった。これ自体夢なはずだから信ぴょう性はないけれど、まさかね。
「私の髪掴んで、天罰とか……」
「そりゃ邪魔ばっかりされて死んでたらラッキーでしょ」
「うわ、ひど」
妹は笑った。この状況においてもこいつは笑うのか。
「耕平さんと幸せになれるって思うとそれだけでいいの」
「あはは、そんなお姉ちゃんにいいこと教えてあげる」
ニコニコしながら私に近づいて真正面に来る。そのまま予測もしなかった言葉が流れ出た。
「まぁ、そういうことだから」
「……し、信じるとか言ってないけど」
「確かめればいいじゃん」
私のタバコを奪って裸足でにじる。
「ずっと言おうと思ってたんだけどタバコ嫌いなんだよね」
ポンと、肩を叩いて私の横を通り過ぎた。夢では感じないはずの、香水の匂いが微かに香った気がした。
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