1人が本棚に入れています
本棚に追加
嫌な目覚めだ。まさか妹が出てくるとは。殺して、三日目。彼はいつも以上に元気で、とうとう、ハンバーグなんて肉の感覚が直にある料理を始める。抱きしめて彼の温もりを確かめても、彼は目の前の肉に夢中で、私の声なんて聞こえていない。料理にというよりも、妹の、椿の肉片と向き合っている。幻覚は消えない。すぐそこで黒髪は揺れ、華奢な肩は彼に寄り添う。
「あぁ、美味しい」
彼は人間を食べることに抵抗はなく、それ以上に訪れる快感に溺れているように見えた。その姿で、昨日の妹の話は現実味を帯びた。
「ちょっと、トイレ。誰か来ても鍵開けんなよ」
「……開けないよ」
廊下に消えたのを確認して、即座に冷蔵庫に向かった。妹の話を信じた訳じゃない、けれど気になる。冷凍室には手や足、胴体など分類がされていた。上の扉の方を少し開けると、黒髪が見えた。ただ野菜室には、鶏肉や豚肉が大量に入っていて、私はこっちを食べていたのを確信した。初日のビーフシチューは分からないが、それ以降の食事は基本こっちを食べさせられていたんだろう。後ろでガタ、と音がした。振り向くと目を見開いた彼。
「冷蔵庫、開けないって……」
彼に見つかってしまったけれど、正直な話を聞きたい。
「……私に食べさせなかったのね」
「あ、ばれた? あんまりに可哀想だったからね」
電気代勿体ないから、と野菜室を閉めた。彼のうでを掴む。
「なに」
「でもそれだけじゃない」
彼の目を睨んだ。
「……私のこと殺そうとしたくせに」
動きが止まった。空気は張り詰めてお互いが息を止めているのが分かった。
「……何言ってんの」
「初めからおかしかったのよ」
だるそうに力を抜いた。彼は何も言わない。その反応で妹の話は、真実味を増した。その後私なりに考えた推理は繋がっていった。
「まず、包丁。うちの家では使わないから棚の下に放ってあるのね。咄嗟に掴めるようなところになんてない」
「料理器具がほこり被ってて驚いたよ」
「普段包丁なんて使わないから違和感なかったけど、あれ、耕平さんがもってきたやつなんだよね?」
「あまり料理しないって言ってたから。言ったじゃんサプライズって」
「……次」
長くなるから、彼をリビングに座らせた。私も向き合って座る。
「部屋に荒れた形跡がなかったってことはすんなり殺してんのよ」
「それでも不審者に見えたし」
最初のコメントを投稿しよう!