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「そうじゃないでしょ。後ろ姿だけで人を判断するバカは妹の彼氏だけじゃなかったのね」
彼は口をつぐんだ。「私のことを殺そうとしていた」という妹の話は短いながらもショッキングで、それでいて核心を突いていた。私は一気に畳みかける。
「あと声でも判断したんじゃない? 妹は彼氏だと思って振り向かなかったんだろうけど」
彼は私の家に初めて侵入したわけだ。妹のことも知らないわけだし、私だと信じるのも無理はない。
「死体処理も怪しいでしょ。さっき見たけど骨まですっぱり切られてた。それって包丁だけじゃ出来ないでしょ?」
さすがに知識がなくてもそれくらいは分かる。音楽プレーヤーがなかったらどうしていたのだろうか。
「初めからそういう機械持ってきて、私のこと切ろうとしてたのね。持ち帰って処理するためにそんな道具持ってきてるのなんて……考えたら分かるわよ」
俯いたまま、何も言わない。
「……私のこと殺したいくらい嫌だった?」
「まだ、何も言ってないじゃんか」
「でももう分かったの。殺したかったんでしょ。妹は手違いだったんでしょ。本当は私のこと殺したくてわざわざ合鍵内緒で作って、こんなの犯罪よ」
「犯罪なんて、そんなこと分かってる」
「私に妹のこと食べさせなかったのが唯一の情け? ふざけないでよ、こっちは毎日毎日憂鬱で暗い気分なのに」
彼は何故か笑った。
「何がおかしいの」
「なんで突然疑うようなこと言うんだよ。唐突過ぎるっていうか?」
「……椿がそう言ってたから」
「大丈夫? 椿ちゃんはもう死んでるんだよ」
「食べたもの」
私の身体を構築したのだ。記憶が混じっていてもおかしくない、私はそう思う。
「きっと変になってんだよ」
「触らないで」
初めて、彼の手を振り払った。
「信じられない。私に椿が教えてくれたのよ」
「……つい三日前まで、妹のこと死ねばいいとか言ってたのにね」
「ごまかさないで。もう言い逃れできないでしょ」
彼は仕方ないなぁ、と言って座りなおした。
「殺そうと思ったよ」
「やっぱり。私、邪魔だった? 嫌いだった?」
「まぁ最後まで聞いてよ」
優しい口調で話しはじめる。
「牡丹のこと、大好きだ。妹に異常なほど劣等感があるみたいだけど僕は牡丹のことが好きだ」
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