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不覚にもドキドキさせられた。求めてきた言葉が彼の口からはいくらでも出でくるのだ。
「……妹の肉なんて食べたら牡丹の味が分からなくなるじゃないか」
素早く立ち上がり、床に押さえつけられた。甘い言葉に騙され、油断した。動こうにも力が強すぎる。
「あってるよ、おおよそはね」
「どういうこと」
「え―ここまで来たら察してよ」
ニコニコと笑ったまま、私に向かい話す。
「牡丹のことが食べたいの」
「……私のことを」
「あ、初めは普通に好きだったんだけどね? でもなんか美味しそうに見えちゃって、抑えきれなかっていうか」
頭のおかしいことを平然と話す。何を言っているの?
「でも殺したと思ったら違う人だし、見られちゃうし。仕方ないから間違って殺しちゃったみたいな雰囲気にしないとさ」
彼の表情が影になる。
「牡丹のこと食べれないじゃんか」
それはまだ、諦めてないということだ。いや、私は今から……。
「大丈夫。痛い思いはさせないから安心して死んでね。人肉が美味しいっていうのも妹さんを通じて分かったしね?」
「私、タバコ吸ってるしさ……あんまり美味しくないと思うし」
「何言ってんの。好きな人の肉が一番美味しいに決まってるじゃんか」
嬉しい言葉だった。この人は妹を選ばない。今までの劣等感が消えた。危機的状況だからだろうか、殺されるのに、目の前の人が好きだ、という感情しか私にはなかった。この人になら殺されてもいい。
「妹さんはだいぶ苦しんでたから楽に死なせてあげるよ」
首に拳が入る。強い衝撃に意識が遠のく。ただ、そんなところも優しいな、なんて気でも違っている。
「牡丹、愛してるよ」
「ッわ、たし……も」
好きな人に殺されるならきっと幸せだ。最後まで彼の温もりを感じ、彼の笑顔を焼き付けて、そっと目を閉じた。
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