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椿からの返事が返ってこない。まだ風邪は治らないのだろうか。会えなさ過ぎて気が狂いそうだった。せめて顔が見たい。
我慢できずに合鍵を持って椿の家に行った。するとそこから大きなカバンを持った男が出てきた。
「お前、誰だ」
「え? 近衛牡丹の彼氏ですが……」
爽やかそうな青年だ。
「……あぁ、すみません。てっきり椿の男かと思って……」
「椿さん、今おられませんよ?」
「そうなんですね……」
椿の姉の彼氏か。そういえば椿がよくお姉さんの話をしていたな、と思った。
「泊まりですか?」
「牡丹が僕の部屋で同棲するんでその荷物を。重いので失礼しますね」
「あ、牡丹さんに妹さんにお世話になっていますと、お伝えください」
「えぇ、では」
笑顔で挨拶した後、俺は家に上がった。一応部屋を覗いたが誰もいない。椿はどこに出掛けているのだろう。
「椿」
呼びかけてみたけど返事はない。それはそうだ。これで出てきたら怖すぎる。さっきだってお姉さんの彼氏にいないと言われたじゃないか。
なのにどうして諦めきれないのだろう。
「顔が見たい、せめて、連絡ぐらいしてくれよ……」
会えないだけでこんなに気分が落ち込むんだ。だいぶキツイ。
「……喉渇いた」
コップを持ち、何か入っているかと冷蔵庫に手を掛けようとした。その瞬間、自分の携帯が鳴った。コップを置いて、電話に出る。
「あ、おはようございます。え? 今日のシフトですか? あ、はい変わります。全然大丈夫なんで。はい、失礼します」
全く人遣いの荒い会社だ。変わらないって言ったら昇給させてくれないくせに。急いで玄関を出て、鍵をかけた。椿といつ会えるか分からないから、仕事終わりにまた来ようと思った。
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