うわさ

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うわさ

  「おまえな、あれはよくないよ」  村瀬が、僕をのぞき込むように心配げに言った。 「えっ、なにが」 「あのことだよ、当然心当たりはあるだろ」 「だからなんだよ」と僕は答えたが「あのことかもしれない」と思った。 「よく考えてみるんだな」  村瀬はそう呟くと去って行った。このまま村瀬とはもう会えないのではと思った。  町を歩くと、僕の顔を見るとおばさんたちはひそひそ話をはじめる。近所のおばさんは当惑した顔で会釈する。まだ若い僕に対して慇懃しすぎる態度だ。僕が会釈し返すと、びっくりしたようににげていってしまった。 僕は町中の人たちがこんな状態になるほど、大胆なことをした覚えはない。では家族のことだろうか。なにか家でとんでもないことが起こったのだろうか。 急いで家に帰る。僕の家は高台にある、祖母と祖父をふくめたいわゆる。二世帯の住宅だ。 「ただいま」と言ってもへんじがない。  家の中はもぬけのからだった。  誰もいない家は、しんとしている。しんとしているというのは、形容しているのではなく、そのものの状態であるような気がした。    固定電話がけたたましくなった。受話かを外し「もしもしどちら様ですか」と訊く。     
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