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1.列
いったい何十分並ぶのだろう。
既に百貨店の入口から外に飛び出ている長蛇の列。2月14日、大勢の女性が各々マフラーを口が塞がるまで巻き上げ、寒さに耐えながらその列を成している。
小早川菫は逡巡しながらも、そっとその列の最後尾に両足を揃えた。
この列に並ぶかどうか、散々迷った。列が億劫だからといった理由ではない。チョコをコンビニで済ませるか、ちゃんとしたチョコにするかについて迷っていたのだ。
付き合っているアキラは、帰っても家にいるかどうかは分からない。どこかの女の部屋で今頃チョコを貰っているのかもしれない。
浮気性とか、もうそんな言葉を通り越し、浮気病と名付けては叱責し、今ではもう、浮気しないわけがない日常風景として受け入れている。
そんな男には300円のチョコで充分とするか2,000円以上するチョコをあげるのか、それを判断しかね、結局15分迷ってこの列に並んでいる。
列に並ぶ女性たちは寒さに凍えながらも、皆一様に暖かい表情を浮かべている。愛する彼氏を想ってか、彼氏はいなくとも自分へのご褒美か。私は今、どんな顔をしているのだろう。菫はウインドウに写る自分の顔を見た。暖かくも冷たくもない、苦く難しい顔をしていた。
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