2.小さな未来

4/5
前へ
/13ページ
次へ
 コンロの五徳に油汚れがついていない。キッチンの隅にこびりついていた汚れも無くなっている。  ちらりとアキラを見る。アキラは鼻唄を歌いながら、ラーメン屋さんの特集をしているTVに釘付けだった。  辺りを見回すと、廊下も部屋の床も、塵ひとつ落ちてない。  猫は自分のテリトリーだけは綺麗に舐めあげる。そんなとこだろうか。だが、それはアキラにとっては、ここが自分のテリトリーということだろうか。いや、アキラは猫ではないのだが。 「あのさ、俺、最近ね、塩ラーメンの奥深さに気付いた。今度、ここ行こうよ」  嬉しそうにTV画面を指差している。菫は身体を傾けて、画面を覗きこんだ。 「……うん」 「あとさ、このパンめっちゃ美味い! 明日もこれがいい、俺!」 「そのパンすっごい人気で何十分も並んで買ったの。そんなに毎日無理だよ。高いし」  アキラは残念そうな顔をして、最後の一切れ噛りついた。 「そっか、じゃあ俺が買いに行く。お金は何とかなる。将来的にね! 俺、実はさ、これ……やり始めたんだ」  アキラは鞄からどっさりと参考書らしいものを取り出し、テーブルに置いた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加