1.列

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 アキラとは職場で出会った。と言っても、職場内の同僚ではない。職場で定期清掃をしている業者さんだった。  どしゃ降りの雨が降っていた。何月かも忘れてしまった、とある月曜日。  お昼を食べに出ようとすると、会社の軒先でまごまごしている業者さんがいた。薄いブルーの作業着が肩だけ濃紺に染まっている。ずぶ濡れの雨に打たれたようだった。髪もずいぶん濡れているようだ。ぽちぽたと後ろ髪から水滴が滴っている。自分で染めたのであろう茶髪は、雨に濡れたせいもあるのか、ところどころ色むらがあるように見えた。 「……こりゃ厳しいな」  そんな言葉をぽつりと呟き、舌打ちしていた。私が隣に立って傘を差そうとすると、その業者さんとばっちり目が合った。  小動物のような目は、すがるように菫とその右手に持たれた傘をとらえていた。 「……傘……入りますか?」  仕方なくそう口に出してしまうと、雲を吹っ飛ばすような笑顔を向けられた。 「マジすか! ありがとうございます。あそこのコンビニまでで良いんで」  後ろから誰かに見られてないかを確認しながら、菫はそそくさと傘を差し、招き入れた。 「いやー、マジでありがたいす。傘、忘れたんすよ」  朝から雨は降っていたはずだ。どういう思考回路で傘を忘れるのだろう。そう喉元まで言葉が押し寄せるが、とりあえず二人で信号を渡った。水溜まりが、二人分だけ撥ねる。
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